現役管理栄養士が若年女性のやせについて考えてみた

先日SNSをなんとなく見ていたら、「50kgから-13kg痩せた食事!」という動画投稿が目に入りました。確か韓国チゲ鍋風のレシピ動画だったのですが、それにしても、この文言が本当に正しいのであれば、その投稿した女性は37kgだということになります。
日本人の平均身長が158㎝なので、それで計算すると、彼女のBMIは14.8です。

14.8!!

病院勤務の管理栄養士からしてみたら、これは驚異的な数値です。
嚥下機能が悪くて食事があまり食べられない方や、COPD等で肺が悪く、食事をとっても太らない方などが、この辺りの数値に多く、そういう方はたいてい栄養状態が悪いので、すぐさま管理栄養士やニュートリションサポートチームという、多職種連携で栄養状態を見るチームが介入して、なんとかして彼らの栄養状態、ひいては体重を適正体重まで戻そうと努力します。
それくらいの数値なのです。
もちろんその投稿者が本当に37kgなのかはわかりません。ウソなのかもしれません。
問題はその数値の真実性ではなく、「その体重じゃないと、可愛いって思われないんだ」と、投稿を見た人が思ってしまうことです。

長年問題視はされている【若年女性のやせ】

2021年、厚生労働省は「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」を4回にわたって行ってきました。活力ある持続可能な社会の実現に立ちはだかる主な栄養課題として、【若年女性のやせ】があげられています。
これは、私が栄養学を学んでいた学生の頃から言われていたことでもあるので、10年以上前から言われ続けている課題でもあります。何故今更、という感じでもありますが、逆に言えば、問題視されながらしっかりフォーカスしてこなかった故に、10年間ずっと増加傾向であるという現実があります。

実際私も学生のころはそこまで考えたことがありませんでしたし、痩せているなら良いじゃないくらいにしか思いませんでした。事実、痩せというものは、肥満と同じで、身体に劇的に悪影響を及ぼすものではありません。胆石や痛風のように、痛くてのたうち回るということがないので危機感がない上に、痩せはなぜいけないのか?という内容で調べても、子供が低体重で生まれてくるくらいで、結局本人には関係なく、痛みもないので他人事になります。(もちろん、冷えやすくなるとか無月経になるとかもありますが、意識を変革するには少し物足りない感じですよね。月経がこないとか逆に楽ですしね。)

自己責任論で片づけられないこの問題

そもそも何故若年女性がそこまで痩せることに執着するのかと言えば、結局のところこの社会全体にはびこるルッキズムのせいなのではないかと思います。
ルッキズムという用語は最近できた造語ではありますが、身体的特徴に対して過度な価値を置くことは、世界中の文化や伝統の中でもしばしば見られることであり、この根深さを考えると、ルッキズムは人間という生物が生きるために備わった視覚センサーをしっかり反応させているというだけで、しょうがないことという側面があるのかもしれません。(味のないものが美味しく感じられなかったり、甘いものや油っぽいものがおいしく感じるのと同じように。)
ただし、やはりルッキズムを肯定する社会である弊害として、思春期における少女たちの、「痩せなければ!」という過度な意識は、インターネットを通じ多くの少女達に伝搬していきます。(上記の37kgという具体的な数値や、やりすぎとも言える身体に対する加工写真等)今の日本人の20~30歳台女性のやせの割合は、中長期的に増加傾向であり、主な 先進国の中でも成人女性のやせの割合は最も高いとされていますが、今の10~20歳台前半の若年層は、生まれながらのデジタルネイティブ、伝搬効果は更に高く、ここで対策を打たなければ今よりもっと痩せの割合が増えるのではないでしょうか。

自然に健康になれる食環境づくりとは

厚生労働省は今回の問題点として【減塩】も取り上げていて、この問題については、埼玉県朝霞保健所の研修がとても興味深かったです。

何も考えずに生きるだけでも減塩生活を実行できるように、社会全体が変わっていくこの取組みは、健康意識の高い人も、低い人も、誰一人取りのこさず、みな平等に健康になっていくものです。例えば、スーパー等で、減塩の商品を目の高さの棚に置いてみたり、減塩の商品を充実させたり、普通の商品より値段を安くしたり等、健康意識の高い人だけでなく、低い人も減塩の商品を買ってしまうような取組みがされていました。
このように、国や企業などが連携すれば、自然に健康になれる食環境を作り出すこともできるのだなと、改めて目から鱗が落ちる思いでした。

【若年女性のやせ】の問題も同様に、国や企業は、コンプレックスを煽る広告や不適切なSNSの投稿などを精査し、身体的にも精神的にも未熟な若年層が、過度なルッキズム思想に陥らないようにする必要があると考えます。微力ながら、私のような文章を作る者も考えて投稿をしていきたいと感じました。

2022年、コロナ禍の終息もままならず、まだまだ日本全体が、不安に包まれているように感じる中で、「自然に健康になれる食環境づくり」の、特に【若年女性のやせ】の問題は、緊急性がなく後回しにされそうなものではありますが、私にできることから少しでも取り組んでいきたいものだなと感じました。

プロフィール

小倉 静香(Shizuka Ogura)管理栄養士 ヘルスケア栄養ライター
現役病院管理栄養士。趣味は食べ歩きで、美味しい物のためならどこへでも。基本的なボディメイクは食事制限のみなので、外食以外の食事ではできるだけ質素な食事を心がけている。常日頃栄養学に接しているからか、食べるものに関しては少なからず拘りがある。一日に摂取できるエネルギーは決まっているので、余分なエネルギーはとらない、余計なものは口にしない。ワイン好きのフレンチ好き。それもあってか高タンパク低脂質、ビタミンミネラルも豊富なジビエ好き。多くの食材を少しずつ頂く。すべてはバランスが大切。

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